監修:歯科医師 濱本 靖也(HALO DENTAL CLINIC 院長)

歯の神経は、正しくは歯髄(しずい)という組織です。神経線維だけでなく、血管も通っています。そして、この記事でいちばんお伝えしたいのは次のことです。

痛みが消えたからといって、治ったとは限りません。痛みが引いたのは、歯髄が回復したからかもしれませんし、歯髄が死んでしまったからかもしれません。この2つは、症状だけでは見分けがつきません。

この記事でわかること

  1. 症状から見た、歯髄の4つの状態
  2. 歯科医院では、生きているか死んでいるかをどう調べるのか
  3. 受診すべきタイミング

歯の神経とは「歯髄」という組織のこと

歯のどのあたりにあるのか。日本歯科医師会は、歯の構造を次のように説明しています。

歯の中央部には血管が侵入している「歯髄」があります。歯の本体は「象牙質」と呼ばれる組織です。

出典:歯と歯ぐきと歯を支える骨の構造(日本歯科医師会「テーマパーク8020」)

歯は外側から、エナメル質・象牙質・歯髄という順に重なっています。

歯髄は歯のいちばん内側にあり、根の先の小さな穴(根尖孔/こんせんこう)を通って、あごの骨の中の血管や神経とつながっています。

「神経」という言葉から細い糸のようなものを想像しがちですが、実際には血管を含んだやわらかい組織のかたまりです。

歯髄がしている3つのこと

働き 内容
栄養を運ぶ 血管を通じて、歯の内側に水分や栄養を届けます
刺激を感じ取る 冷たさ、熱さ、痛みを脳に伝えます。異常を知らせる仕組みでもあります
新しい象牙質を作る 刺激を受けると、内側に象牙質を足して壁を厚くしようとします

3つめの働きは、あまり知られていません。日本歯科医師会の解説にも、象牙質について次の記述があります。

歯冠部(しかんぶ)のエナメル質が失われると象牙質はどんどん露出してしまいます。しかし、エナメル質と異なり、象牙質は加齢により増加しエナメル質が咬耗したところに新しく作られることがあります。

出典:歯と歯ぐきと歯を支える骨の構造(日本歯科医師会「テーマパーク8020」)

歯は、削られたら削られっぱなしではありません。歯髄が生きているあいだは、内側から補おうとする働きがあります。

「できるだけ神経を残しましょう」と歯科医院が言うのは、この働きを失いたくないからです。

症状から見た、歯髄の4つの状態

症状から見た、歯髄の4つの状態

歯髄の状態は、大きく4つの段階に整理できます。ご自身の症状と照らし合わせてみてください。

状態 主な症状 一般的な対応
健康 症状なし。冷たいものが一瞬しみることはある 経過を見る
可逆性歯髄炎 冷たいもの・甘いものでしみるが、刺激がなくなればすぐ治まる 原因を取り除けば元に戻る可能性がある
不可逆性歯髄炎 何もしなくてもズキズキ痛む/温かいもので強く痛む/夜間や横になると強くなる/鎮痛剤が効きにくい 神経を取る治療の対象になることが多い
歯髄壊死 痛みが消える/歯が黒ずむ/噛むと違和感/歯ぐきが腫れる・膿が出る 神経を取る治療(感染根管治療)が必要

この表は目安です。症状だけで状態が確定するものではありません。実際の判断は、後述する診査を含めて行われます。

可逆性歯髄炎|元に戻る可能性がある段階

「可逆性(かぎゃくせい)」とは、元に戻れるという意味です。

炎症が軽い段階であれば、原因となっている虫歯を取り除き、適切に処置をすれば、歯髄が落ち着いて元の状態に戻ることがあります。この段階なら、神経を残せる可能性があります。

不可逆性歯髄炎|元に戻らない段階

炎症が進むと、原因を取り除いても歯髄が回復しなくなります。これが不可逆性歯髄炎です。

日本歯内療法学会の「歯内療法ガイドライン」は、永久歯で神経を取る治療が適応となる条件の第一に、この不可逆性歯髄炎を挙げています。

1)不可逆性歯髄炎。

2)根尖病変の有無にかかわらず、歯髄壊死。

出典:歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会)

何もしなくてもズキズキする、温かいもので痛む、夜に痛みが強くなるといった症状は、この段階を疑うサインです。

歯髄壊死|神経が死んだ状態

歯髄が働きを失い、組織として死んだ状態です。ここで起きるのが、痛みの消失です。

歯の神経の痛みが消えても治ったとは限りません

数日から数週間ズキズキと痛んでいた歯が、あるとき急に痛まなくなる。このとき、2つの可能性があります。

  1. 炎症が落ち着いて、歯髄が回復した
  2. 歯髄が死んで、痛みを感じる働きが失われた

この2つは、症状だけでは区別できません。

「痛くなくなったから、もう大丈夫」と考えて受診をやめてしまう方は、決して珍しくありません。数か月、あるいは1年以上たってから、歯ぐきの腫れや変色をきっかけに来院される方もいらっしゃいます。

そのこと自体を責めるつもりはありません。痛みがなくなれば、そう考えるのが自然です。ただ、今からでも確認する価値はあります。

歯髄が死んでいる場合、放置しているあいだに根の先の周りへ問題が広がっていきます。早く確認するほど、対応の選択肢は多く残ります。

歯が黒ずんでくることがあります

歯髄が死ぬと、時間をかけて歯の色が変わってくることがあります。

歯の内部で起きた変化が、象牙質を通して外から見えるようになるためです。前歯であれば見た目で気づきやすく、奥歯では気づかないまま経過することもあります。

「痛くないのに色が変わってきた」という場合は、受診の理由になります。

歯科医院では、生きているか死んでいるかをどう調べるのか

「歯 神経 死んでる 確認」という言葉で検索されている方がいます。知りたいのは当然のことです。

日本歯内療法学会の「歯内療法ガイドライン」は、歯内療法における診査について次のように定めています。

基本情報は医科的あるいは歯科的既往歴、患者の表現する主訴、視診、デンタルX線写真から得られる。必要に応じて温度診、電気診、打診、触診、動揺度などの診査を行う。さらに歯周組織の診査、透照診、咬頭干渉の有無、細菌学的検査も必要となる場合がある。

出典:歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会)

また、同じガイドラインは「治療を予定する全ての歯に対して歯髄および根尖歯周組織の診断を行うべきである」とも定めています。

歯科医院では、生きているか死んでいるかをどう調べるのか

聞き慣れない言葉が並んでいるので、ひとつずつ説明します。

診査 何をするか 何が分かるか
視診 目で見て確認する 虫歯の広がり、変色、歯ぐきの腫れ、ひび
デンタルX線写真 歯の一部を写す小さなレントゲン 虫歯の深さ、根の形、根の先の周りの状態
温度診 冷たいものや温かいものを当てる 歯髄が反応するかどうか。 反応がなければ死んでいる可能性
電気診 ごく弱い電流を流す装置を当てる 歯髄が反応するかどうか(温度診と組み合わせる)
打診 歯を軽く叩く 根の先の周りに炎症があるか
触診 歯ぐきを指で押す 腫れや圧痛があるか
動揺度 歯の揺れを調べる 歯を支える組織の状態
透照診 光を当てて透かす 歯のひびの有無

温度診と電気診が、歯髄が生きているかどうかを直接調べる検査です。

「冷たいものを当てて反応するか」という点だけを見れば、原理そのものは単純です。しかし、それを自分でやってはいけません。

歯髄が生きているかは自分では確認できません

「冷たい水を含んで確かめてみよう」と考える方がいますが、おすすめしません。

  • 結果が当てになりません。 隣の歯が反応しているのか、その歯が反応しているのかを区別できません
  • 反応の有無だけでは判断できません。 実際の診断では、他の歯との比較、X線写真、症状の経過を組み合わせて判断します
  • 状態を悪化させることがあります。 炎症のある歯に強い刺激を加えると、痛みが強くなることがあります

変色や症状は「手がかり」であって「判定」ではありません。

この記事で診査項目を挙げたのは、自己判断をしていただくためではなく、受診したときに何が行われるのかを知っておいていただくためです。何をされるのか分かっていれば、受診のハードルは下がります。

歯髄の検査は1回で確定しないこともあります

「今日は経過を見ましょう」と言われることがあります。これは診てもらえなかったという意味ではありません。

歯髄の状態は、時間をおいて再度調べることで判断がつく場合があります。特に、可逆性歯髄炎か不可逆性歯髄炎かの境目は、その場で確定しないことがあります。

すぐに結論が出ないことは、慎重に診ているという意味でもあります。

歯の神経の炎症を放置するとどうなるか

歯髄が死んだまま放置すると、次のように進みます。

  1. 根の中で細菌が増える。 歯髄という組織がなくなった空間は、細菌にとって都合のよい場所になります
  2. 根の先の周りに炎症が広がる。 これを根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)といいます
  3. あごの骨に影響が出る。 炎症が続くと、根の先の周りの骨が失われていきます
  4. 歯ぐきが腫れる、膿が出る。 外から見て分かる症状が出るのは、この段階です

多くの場合、痛みを伴わずに進みます。

気づいたときには骨の変化が起きていた、ということが起こりえます。

ただし、この段階に至っても治療の選択肢はあります。根の中を清掃して感染を取り除く治療(感染根管治療)で対応できる場合があります。「もう手遅れかもしれない」と思って受診をやめないでください。確認しないまま時間が経つことのほうが、選択肢を減らします。

虫歯以外で歯の神経が問題になることもあります

歯髄がダメージを受ける原因は、虫歯だけではありません。

日本歯内療法学会のガイドラインは、神経の治療(非外科的歯内療法)が適応となる状態として、次のようなものも挙げています。

虫歯以外の状態 どういうことか
外傷によって移動または破折した歯 ぶつけて動いた歯や、欠けた歯
歯髄と交通した亀裂・破折 歯のひびが歯髄まで達している状態。症状の有無を問わないとされています
内部吸収・外部吸収 歯の内側または外側から歯の組織が溶けていく状態
他のあらゆる方法でも軽減できない知覚過敏 しみる症状が、他の処置では抑えられない場合

出典:歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会)

このうち外傷は、ぶつけた直後ではなく、何か月も何年も経ってから歯髄が死ぬことがあります。

そのときには痛みがなく、歯の変色で初めて気づくことも珍しくありません。ひびについても、見た目や通常のレントゲン写真では分かりにくいという難しさがあります。

「虫歯はないと言われたのに噛むと痛む」という場合、こうした原因が背景にあることがあります。

歯の神経が痛むとき受診すべきタイミング

次のいずれかに当てはまる場合は、受診をおすすめします。

  • 何もしなくてもズキズキ痛む
  • 温かいもので強く痛む
  • 夜間や横になったときに痛みが強くなる
  • 鎮痛剤を飲んでも痛みが引きにくい
  • 痛みが自然に消えた(治ったとは限りません)
  • 歯が黒ずんできた
  • 歯ぐきが腫れている/膿のようなものが出る/おできのようなものがある
  • 噛んだときに違和感や痛みがある
  • 歯をぶつけたことがある(外傷から時間がたって歯髄が死ぬことがあります)

腫れや発熱を伴う場合は、早めに連絡してください。

受診時に歯科医師へ確認しておくとよいこと

「どの歯科医院を選べばいいか」という質問をいただくことがあります。

看板やホームページの表示だけでは判断できません。そのかわり、受診したときに次のことを確認すると、その医院の進め方が分かります。

確認すること 何が分かるか
「今、歯髄はどういう状態ですか」 診査をしたうえで説明してくれるか
「どんな検査をしましたか」 温度診・電気診・X線写真などを行っているか
「神経を残せる可能性はありますか」 選択肢を示してくれるか
「保険診療と自由診療で、何が違いますか」 費用と内容の違いを説明してくれるか
「今すぐ処置しないと、どうなりますか」 緊急性を判断できる

答えにくそうな質問ではありません。説明を受けたうえで判断するのは、患者側の当然の権利です。

受診したら必ず神経を抜かれるのか

「行ったら抜かれるのではないか」という理由で受診をためらう方がいます。状態によっては、神経を残せる場合があります。

日本歯内療法学会のガイドラインは、露出した歯髄を保護する処置(直接覆髄)の条件を挙げていますが、その第一が「臨床的に生活歯髄で無症状な歯髄が露髄した場合」です。

つまり、症状が出ていない段階であることが条件のひとつになっています。裏返せば、すでに強く痛んでいる状態では、残せる可能性は下がります。早い段階で受診するほど、選択肢は多く残ります。

「残す」にも種類があります

歯髄を残す処置は、ひとつではありません。歯髄温存療法(VPT)と呼ばれる処置には、大きく2つの考え方があります。

処置 歯髄をどう扱うか
覆髄治療(直接・間接) 歯髄を取り除かずに、上から覆って保護する
断髄治療 歯髄の上部だけを取り除き、根の中の歯髄を残す

歯髄は、歯の頭の中(歯髄腔)から根の中(根管)まで、ひとつながりに入っています。そのどこまでが傷んでいるかによって、残せる範囲が変わるということです。当院は両方を扱っており、傷みがどこまで及んでいるかで使い分けています。

歯髄の上のほうだけが傷んでいると判断できたときに、断髄治療という選択になります。なお断髄については、日本歯内療法学会のガイドラインが永久歯では応急処置・暫間的処置と位置づけている一方、国外では成績を報告した研究が複数あり、評価に幅があります。当院が適応を限定しているのは、そのためです。

なお、神経を抜くかどうかの判断基準や、抜いたあとに歯がどうなるのかについては、別の記事で詳しく扱っています。

根管治療の保険診療と自由診療の違い

歯の治療には、保険診療と自由診療(自費診療)があります。

保険診療は、誰もが同じ負担割合で必要な治療を受けられる制度です。根管治療も、電気的な根管長測定も、保険診療のなかで行われています。一方、自由診療では、使える材料や器具、かけられる時間の制約が異なります。

マイクロスコープ(歯科用の顕微鏡)、ラバーダム防湿、MTAセメントといった方法を組み合わせた処置は、自由診療として提供されることがあります。どちらが優れている、という単純な話ではありません。

  • 歯の状態によっては、保険診療で十分に対応できます
  • 一方で、根の形が複雑な場合や、神経を残す処置を試みる場合には、自由診療の選択肢が示されることがあります

大切なのは、どちらを選ぶかを決める前に、今の歯の状態を正しく把握することです。

診査を受けたうえで、選択肢とそれぞれの費用・見込み・リスクの説明を受けてから判断してください。当院の自由診療の費用は料金表に記載しています。

歯の神経について、この先に知っておくとよいこと

この記事では「今どういう状態か」を中心に扱いました。次の疑問は、それぞれ別の記事で扱っています。

気になっていること 扱っている記事
抜くべきか/抜いたら歯はどうなるのか/何年もつのか 「歯の神経は抜くべきか|「脆くなる」の本当のところと、判断の基準」
治療中は痛いのか/麻酔は効くのか 「歯の神経を抜くのは痛い?麻酔が効かない場合まで正直に解説します」
治療後のズキズキはいつまで続くのか 「根管治療後のズキズキはいつまで?日数と症状で判断する目安」
治療中に聞こえる「ピピピ」という音は何か 「根管治療中の『ピピピ』の正体|あれは根の長さを測る音です」

気になる項目があれば、あわせてご覧ください。

よくある質問

Q1. 歯の神経が死にかけているのは、どんな症状ですか?

何もしなくてもズキズキ痛む、温かいもので強く痛む、夜間に痛みが強くなる、鎮痛剤が効きにくい、といった症状は炎症が進んでいるサインです。ただし症状だけでは確定できません。

Q2. 神経が死んでいるかどうか、自分で確認できますか?

できません。歯科医院では温度診・電気診などの検査を、X線写真や他の歯との比較と組み合わせて判断します。自己判断は結果が当てにならず、状態を悪化させることもあります。

Q3. 痛みがなくなったのですが、受診は必要ですか?

必要です。痛みの消失は、炎症が治まった場合と、歯髄が死んだ場合の両方で起こります。この2つは症状では区別できません。

Q4. 歯が黒ずんできたのは神経のせいですか?

歯髄が死んだ歯は、時間をかけて色が変わってくることがあります。ただし着色や詰め物の変色など、他の原因もあります。確認のために受診してください。

Q5. 受診したら必ず神経を抜かれますか?

いいえ。状態によっては残せる場合があります。ただし学会のガイドラインが挙げる条件には「無症状な歯髄」が含まれており、痛みが強くなってからでは可能性が下がります。

まとめ

歯の神経は「歯髄」という、血管も含む組織です。栄養を運び、刺激を感じ取り、新しい象牙質を作って歯を守る働きをしています。

歯髄の状態は、健康・可逆性歯髄炎・不可逆性歯髄炎・歯髄壊死の4段階に整理できます。痛みが消えたことは、治癒を意味しません。

生きているか死んでいるかは、温度診や電気診などの検査を組み合わせて調べます。自分では確認できません。

受診が遅れたことを気に病む必要はありません。今からでも確認できます。気になる症状があれば、歯科医院にご相談ください。

当院の考え方については歯をできるだけ長く残す治療、精密根管治療のページに記載しています。しみる症状が続く場合は知覚過敏・その他の痛みもあわせてご覧ください。

監修者情報

濱本 靖也(はまもと やすなり) HALO DENTAL CLINIC 院長/歯科医師

濱本 靖也(はまもと やすなり)

HALO DENTAL CLINIC 院長/歯科医師

  • 平成25年 朝日大学歯学部 卒業
  • 大阪市内の歯科医院にて勤務
  • 令和2年 HALO DENTAL CLINIC 開院
  • 研修歴:歯周組織再生療法エムドゲイン認定コース修了/3i Implant認定コース修了/Nobel Biocare Implant 認定コース修了/SPI Implant 認定コース修了/Invisalign go 認定コース修了

所属学会:日本歯周病学会/日本歯内療法学会/日本口腔インプラント学会/日本臨床歯科医学会/大阪府歯科医師会

HALO DENTAL CLINIC(大阪市中央区道修町4-7-11 D-HB 3F / 淀屋橋駅13番出口 徒歩3分 / 肥後橋駅6番出口 徒歩4分)

【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状の現れ方や歯の状態は一人ひとり異なります。ご自身の状態については、必ず歯科医師にご相談ください。

参考文献